イタンジ社長 伊藤嘉盛のブログ

ITを使って不動産業界にイノベーションを生むイタンジ株式会社の社長ブログ

HEYAZINE誕生前夜

HEYAZINEをつくる前、僕は「賃貸仲介会社」の社長だった。
この経験があったからこそ、HEYAZINEは生まれた。
今回は、なぜHEYAZINEをつくろうと思ったのか。それを話そうと思う。


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□仲介会社の日課は物件パトロール

仲介会社を経営していたとき、僕は毎日“パトロール”をしていた。市民の安全を守るためのパトロールであれば、そこに意義を見いだせていたかもしれない。でも僕が明け暮れていたのは、「不動産データベースをのぞきに行く」という“物件パトロール”だ。当時 僕は、このいわゆる物件確認業務に忙殺されていた。そして、そこに意義を見いだせずにいた。

仲介会社の仕事は、部屋を探している人に物件を紹介することだ。その中でなぜ“物件パトロール”が必要だったかというと、仲介会社は自社で物件を管理しているわけではないので、入居者に紹介する部屋を自分で探す必要がある。仲介会社は、「不動産データベース」から物件情報を得ることによって、はじめて入居者に部屋を紹介できるという仕組みになっている。黙ってじっとしていても誰も新着物件を教えてはくれないので、仲介業者は毎日、不動産業者しか見ることのできないデータベースに物件情報を取りにいく

一方で仲介会社は、賃貸ポータルサイトに物件情報を掲載している。これは仲介業者が手作業で行う場合が多く、サイトへの入力は、1件につき10分~15分。とても手間のかかる作業だ。加えて「不動産データベース」の情報は、毎日更新される。もちろん更新のお知らせが親切丁寧に自動で届くわけではないので、仲介業者は常にデータベースを監視して、物件情報に目を光らせていなければならない。つまり物件情報を「最新」にしておくことは、涙と汗が止まらなくなるくらいの努力と根性、そして膨大な時間が必要だった。

□進むも地獄 退くも地獄

入居者を獲得するために、データベースから良い物件を探し出す。そして良い物件ほど、入居者が決まるのは早い。だからすぐにまた新しい物件を掲載しないと、ユーザからの問い合わせはこなくなる。そしてユーザからのレスポンスがほしいから、掲載物件の量を増やす。すると入力作業とメンテナンスの手間が増えるしだいに、手が回らなくなる。情報が古くなる。ユーザからの反応が途絶える。そして最新の優良物件を求めて、また“物件パトロール”と入力作業を繰り返す……。まさに「進むも地獄 退くも地獄」状態の、“物件確認”作業。仲介業者は、常にこの作業に追われている。

そしてこの悪循環からは、こんな弊害が生まれる。ある日ユーザから問い合わせが入る。「ポータルサイトに載っていたこの物件、まだ空いていますか?」と。しかしこの物件は、すでに入居者が決まっている。なぜならメンテナンスができていない古い情報が、そのままサイトに残っていただけだから。でもせっかく連絡をくれたユーザに、「ありません」と答えるだけでは芸がない。なぜなら僕は仲介業者で、ユーザに部屋を紹介するのが仕事だから。最初に希望していた物件がなくても、他の物件を紹介しなければ機会損失になる。結果的に“成約済み物件”に来た問合せから契約が決まったとしても、それも立派な売り上げだ……。

そんなことをしているうちに、どんどん自分がすり減っていくのを感じた。

□HEYAZINE誕生

そして僕は決心した。この負の連鎖を断ち切るために、自社サイトを立ち上げることを。自社HPをつくれば、物件を紹介する項目や文章、写真の枚数を工夫して、他と差別化を図れる。同じ定型フォーマットに入力して物件紹介をするポータルサイトよりも、自社HPの方が物件を魅力的に紹介できる。

自社HPで、本当にある物件だけを、真面目に紹介していこう。そう思ってHP制作の依頼をしたのが、将積(イタンジのCTO)だった。(実は、将積にもHEYAZINE立ち上げのストーリーがある) そしてHPをつくる過程で、課題だった物件パトロール(=物件確認作業)を効率化するシステム「REcS(レックス)」が生まれた。

僕がHEYAZINEを作った理由 ~ イタンジ株式会社 取締役CTO 将積健士 - 賢い人の部屋さがし HEYAZINE

この時期に、僕は仲介事業の役割や、業界構造、物件流通の仕組みを真剣に考えた。このIT全盛の時代に、なぜか電話とFAXのやりとりが多いこの業界。物件確認などの作業コストに加え、コミュニケーションコストも異様に高い。おまけにあまりの効率の悪さに耐えかねて、大手企業から転職してきた優秀な社員が会社を去るという出来事まで起こってしまった。 そして考えていくうちに、ふと思った。「不動産流通の構造自体を変えないと、根本的な解決にはならないんじゃないか?」と。「情報の効率化を追求しただけでは、不動産業界は変わらないんじゃないか?」と。「効率的で使いやすいサイトをつくるだけでなく、不動産流通の構造自体を変えるような仕組みをつくらないと、不動産業界はいつまでたってもユーザの方を向かない。ユーザが求める物件と、紹介される物件との間にある“溝”が埋まらない。きっと今の日本には、新しい不動産流通のプラットフォームが必要なんだ」と、強く思った。

だからITで物件流通を効率化して、ユーザが欲しい情報にアクセスして、その結果、住みたい場所に住むことができる「適所適住」の世界を実現する仕組みをつくろうと思った。
それがHEYAZINEだ。

HEYAZINEをつくろうと決意してから、僕の環境も大きく変わった。2013年3月にHEYAZINEをリリースしてから、サービスの立ち上げに集中するために、5年間に渡って経営してきた仲介会社は社員に譲った。また、当時、外資系金融会社を退職して起業を考えていた千葉を口説いて、イタンジに入社してもらうことにした。2013年11月にはベンチャーキャピタルから3億円の資金調達をして、サービスの拡大に向け準備は整った。勝負はここからだ。

イタンジ、3億円の資金調達をしました - イタンジ社長 伊藤嘉盛のブログ

□不動産×IT×効率化=適所適住

「HEYAZINEで探せば、良い物件が見つかるよ」「新居を安く借りられるよ」

こんなふうに、ユーザから「探しやすさ」と「満足感」で選ばれる。僕はHEYAZINEを、そういうサイトにしたいと思っている。

たとえば僕たちがAmazonを利用するのは、別にAmazonが「無店舗販売でコストカットをしているから」でも、「巨大な倉庫で効率的に在庫管理をしているから」でもない。単純に、安くて便利だからAmazonを使う。そういうシンプルな理由だと思う。

だからHEYAZINEも、「良い物件が見つかるから」「初期費用が安くなるから」というシンプルな理由で、ユーザから選ばれるサイトにしたいと思っている。「仲介会社を経由していない」とか、「管理会社の物件を直接ユーザに紹介しているから」とか、そういう事情は、僕たちが知っていればいいことだ。

「適所適住」。これをユーザに提供するのが、HEYAZINEの役目だ。